グループホームの開設を検討するとき、最も重要なのが「物件選び」です。
設備を整えることはもちろん、そもそも「その物件が制度上使えるか?」という視点が欠かせません。
今回は、障害者総合支援法・基準省令(第210条)および解釈通知(第十五の2)に基づき、行政書士の立場から「法令で求められる施設基準」と「実務上、見落とされやすいポイント」を整理しました。
このブログでは、物件選定の基本となる法的なルールだけでなく、実際の開設支援の現場で直面した課題や注意点も交えてお伝えしています。
これからグループホームを開設しようと考えている方、すでに物件を探しているけれど不安がある方へ。
制度と実務の両面を押さえて、失敗しないスタートを切るためのヒントになれば幸いです。
押さえたい「立地」のルール
(基準省令 第210条 第1項)
- グループホームは住宅地または住宅地に準ずる地域に立地している必要があります。
- 地域の中で生活することが目的のため、病院・入所施設の敷地内や隣接地は原則NGです。
- 物件を選ぶ際は、都市計画用途地域の確認や地域との関係性も重要な視点です。
💡【実際にあった事例】
「空いてる一軒家があるから使えると思ってた」→立地要件に合わず断念…というケースも。
不安なときは、事前に所管自治体へ確認・相談を。安くて気に入ったからという理由だけで、賃貸借契約や売買契約はしないでください!
「事業所」の単位とは?
(基準省令 第210条 第2項)
- グループホームは1事業所あたり、定員4名以上で構成される必要があります。
- 本体住居とサテライト型住居を合わせて4名を満たせばOK(自治体に要確認)ですが、巡回・記録・サービス提供体制など一体的に管理されることが前提です。
「共同生活住居」とは?
(基準省令 第210条 第3〜5項)
- 利用者が寝泊まりする場所(建物単位)を「共同生活住居」と呼びます。
- 居室に加え、居間・食堂・浴室・トイレ・洗面台・台所を共有することが必要です。
- 1つの建物に何人入居できるか?
→ 新築の場合:2〜10名/既存住宅活用型:最大20名(自治体によっては30名まで可)
💡【実務メモ】
面積基準を満たせばマンションの1戸でも可能。ただし、用途変更や防火設備などの調整が必要になる場合も。
「ユニット」構成に求められる要件
(基準省令 第210条 第6〜8項)
ユニットとは「生活単位」としてのまとまりです。
1ユニットごとに次のような要件があります:
- 居室:7.43㎡以上の個室(収納は除く)
- 居間・食堂:ユニットの全員が集まれる広さ
- 台所、浴室、トイレ、洗面台:ユニット内に配置
- 居室は内鍵あり・外部からも解錠できる構造が望ましい
💡【ポイント】
壁やドアの構造が「簡易個室」扱いになる場合、正式な個室と認められない可能性あり。
天井までの硬質壁+扉の設置をおすすめします。
「サテライト型住居」のルールと注意点
(解釈通知 第十五の2)
- 本体住居とは別の場所にある1人用の住まい(アパート等)を「サテライト型住居」と呼びます。
- 原則として本体住居から20分以内の範囲に限られます(自治体によって30分とする例もあり)。
- 本体1住居につき、サテライトは最大2箇所まで(本体が4名以下なら1箇所まで)
サテライトに必要な設備:
- 7.43㎡以上の居室(収納除く)
- 台所・浴室・トイレ・洗面設備
- 非常時に連絡できる通信機器(携帯電話やナースコールなど)
💡【実務メモ】
毎日巡回できる職員体制が必要です。居宅介護への丸投げではNGになることもあります。
消防法・建築基準法など、他法令も重要
- 建築用途変更の必要性(共同住宅→寄宿舎 等)
- スプリンクラーや報知器の設置義務(延床面積や入居者の区分による)
- 新耐震基準(昭和56年6月1日以降)を満たすこと ※建築確認申請が昭和56年5月31日までに受理されている場合は旧耐震基準
💡【ポイント】
支援区分4以上が8割を超えると、「避難困難対象者」とされ、消防設備の義務が一気に厳しくなります。また、この8割という基準も7.5割(75%)でも8割とするという消防署もあるので要注意です。
「区分3の利用者ばかりだから大丈夫」と油断せず、将来も見越した設備整備が望ましいです。
物件選びは、開設後の「安心・安定運営」への第一歩
グループホームに必要な設備や構造は、「住めればよい」というものではなく、制度・人員・安全・地域性など、さまざまな要素を満たす必要があります。
これまで数多くの物件相談に対応してきましたが、「物件選びの段階で間違うと、すべてが遅れる」という場面を見てきました。
さらに注意が必要なのは、指定権者(県や政令指定都市等)は、障害者総合支援法に基づく基準については確認しますが、建築基準法上の適合性まで丁寧にチェックしているわけではないという点です。
実際には、「建築指導課で問題なしと言われているのでOK」として、形式的に指定が通るケースも少なくありません。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
そもそも、建築指導課に対して、必要な資料を揃えたうえで、適切な質問や確認ができていないということが多いのです。
この点については、また別の機会に詳しく書きたいと思っていますが、問題が表面化するのはたいてい「事故やトラブルが起きたあと」です。
そのときに問われるのは、事業者や管理者の責任であり、場合によっては損害賠償を求められるリスクさえあります。
だからこそ、「制度に詳しい専門家とともに、物件選びの段階から慎重に進める」ことが、将来の安心につながります。
当事務所では、宅建士でもある行政書士が、制度と不動産、両方の視点からサポートいたします。
建物の用途や構造、安全性、立地条件などについても、開設後を見据えて丁寧に確認し、指定申請まで一貫して対応可能です。
開設後も問題のない施設として、安心できるスタートを切るためにも、契約前にご相談ください。