障がい者グループホームや就労支援など、障害福祉サービス事業を始めたいと考えたとき、最初に必要となるのが「法人格の取得」です。
でも、いざ法人を立ち上げようとすると――
- 株式会社?NPO法人?一般社団法人?何が違うの?
- 補助金や指定申請に有利な形態ってある?
- 自分の事業には、どの形態があっているの?
といった疑問にぶつかる方は少なくありません。
一口に「法人」と言っても、株式会社・合同会社・一般社団法人・NPO法人など、いくつかの選択肢があります。
そして、どの法人形態を選ぶかによって、補助金の活用、信用面、運営の自由度など、後々の事業展開に大きな影響を及ぼします。
本記事では、それぞれの法人形態の特徴やメリット・デメリットをわかりやすく整理し、目指す福祉事業に合った法人の選び方をお伝えします。
それぞれの法人形態の特徴と選び方
障害福祉サービスの開業において主に選ばれる4つの法人形態について、簡潔に比較してみましょう。
■ 株式会社
特徴:営利法人として最もポピュラーな形態で、自由度が高く、設立後の変更にも柔軟に対応できます。
- メリット:設立が比較的簡単で、信用度も高く、資金調達や銀行融資にも強い。
- デメリット:営利目的の法人であるため、補助金申請や行政との関係で「営利色が強い」と見られる場面も。
こんな方におすすめ:他の事業と並行して福祉事業も展開したい方、スピード感を重視したい方。
■ 合同会社
特徴:株式会社より設立費用が安く、シンプルな運営が可能な法人。
- メリット:設立・維持コストが低く、柔軟な組織運営が可能。意思決定も速い。
- デメリット:まだ知名度が低く、対外的な信用力がやや劣る可能性あり。
こんな方におすすめ:まずは小さく始めたい方、1人や少人数での運営を想定している方。
■ 一般社団法人
特徴:非営利型の法人として、福祉事業と非常に相性が良い法人形態。
- メリット:設立が簡単で、非営利でも報酬を得ることができるため、柔軟な事業展開が可能。
- デメリット:営利法人ではないため、事業目的や収支の面で一定の制限がある。
こんな方におすすめ:社会的な意義や公共性を重視したい方、補助金活用も検討している方。
■ NPO法人
特徴:特定非営利活動促進法に基づく法人で、公益性の高い活動が前提。
- メリット:補助金や助成金制度との相性が良く、地域からの信頼も得やすい。
- デメリット:設立・運営に手間がかかり、報告義務や制限も多い。
こんな方におすすめ:地域福祉やボランティア的な活動を重視する方、寄付や助成金を活用して運営したい方。
実務目線での選び方のヒント
| 法人形態 | 特徴(ひとことで) |
| 株式会社 | 民間企業として信用力があり、融資や連携がしやすい |
| 合同会社 | 設立費用が安く、少人数・低コストで小さく始めたい方に向く |
| 一般社団法人 | 公的なイメージがある |
| NPO法人 | 社会貢献性が求められるが、補助金や助成金制度と相性が良い |
※補助金の種類や地域によって、指定要件・申請条件が法人形態に影響することもありますので、実際には事前の確認・専門家への相談がおすすめです。
法人選びのポイントは「事業のスケール」と「運営スタイル」
法人の選び方に正解はありませんが、重要なのは「どんなスケールで、どんなスタイルで運営したいか」という視点です。
いずれの法人を選ぶ場合でも、「運営体制を整備できるか」といった点もあわせて考慮する必要があります。
法人設立の流れ
(※ここでは「株式会社」「合同会社」「一般社団法人」「NPO法人」のいずれかを設立する前提で説明します)
1.法人の種類を決める
まずは、上記の4つから自分の事業に合った法人形態を選びます。
「補助金を使いたい」「小さく始めたい」「信用力を重視したい」など、先述のメリット・デメリットをふまえ、目的に応じて選定しましょう。
2. 定款の作成
定款とは、会社や法人の「目的」や「運営ルール」を決める基本書類です。障害福祉サービスを行うには、次の点を必ず押さえておきましょう。
※事業目的:「障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業」など。※これが抜けていると、指定申請が通りません。
※株式会社・一般社団法人は公証役場での認証が必要です(合同会社やNPO法人は認証不要。ただしNPO法人は都道府県や政令市に提出し、内容の審査を受けたうえで、認証を受けます。)
3. 資本金(または設立資金)の決定
障害福祉サービスの指定申請では、最低資本金の要件はありません。
つまり、1円でも法人は設立可能ですが、現実的には開業後の運転資金や指定申請時の通帳残高などを考慮して、ある程度まとまった資金を準備しておく必要があります。
4. 登記申請(法人設立)
法務局へ書類を提出し、法人登記を行います。
登記完了後に「履歴事項全部証明書(登記簿)」や「印鑑証明書」が取得可能になります。
→ これがないと、指定申請や口座開設ができません。
● 登記費用について
法人の種類によって、設立にかかる法定費用は異なります。
| 法人形態 | 登録免許税(登記時) | 定款認証費用 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|
| 株式会社 | 15万円(または資本金の0.7%) | 約5万円(公証人) | 約20~25万円 |
| 合同会社 | 一律6万円 | 不要 | 約6万円 |
| 一般社団法人 | 6万円 | 約5万円(公証人) | 約11万円 |
| NPO法人 | 登録免許税なし(非課税) | 不要 | 実費のみ(書類準備など) |
※紙の定款には印紙代、専門家に依頼した場合は報酬費用が、かかります。
5. 税務署・年金事務所・都道府県等への届け出
法人の登記が終わったら、「事業を始めます」ということを、関係機関に届け出る必要があります。これはすべて義務となっており、開業後の手続きに欠かせないステップです。
■ 税務署への届け出
登記後、2か月以内に以下の書類を提出します。
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書(損益管理をきちんと行いたい場合)
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認申請書(給与支払いを毎月行う場合)
これらは、法人の本店所在地を管轄する税務署へ提出します。
■ 年金事務所への届け出
職員を雇う事業所は、健康保険・厚生年金保険の加入が義務付けられています。
以下の書類を、年金事務所(日本年金機構)へ提出します。
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 被保険者資格取得届(すべての職員分)
代表者が報酬を受け取る場合も、原則として加入が必要です。
■ 都道府県・市区町村への届け出
法人住民税に関する届け出として、下記の提出が求められます。
- 都道府県税事務所 → 法人設立届出書
- 市区町村(法人課税担当) → 法人設立届出書
名称や書式は自治体によって異なるため、事前に確認しておくとスムーズです。
書類の控えや受付印は、今後の申請に必要になることも
これらの届け出の控え(受付印のある写し)は、障害福祉サービスの指定申請時にも必要になる書類です。必ず保管しておきましょう。
6. 法人口座の開設
登記完了後、銀行で法人名義の口座を開設します。障害福祉サービス事業を行う場合、国保連合会(国保連)からの報酬は必ず法人名義の口座へ振り込まれます。そのため、事業開始前に法人名義の銀行口座を準備しておく必要があります。
◆開設に必要な書類(例)
銀行により異なりますが、一般的に以下の書類が求められます
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 印鑑証明書
- 会社の代表印(法人印)
- 代表者の本人確認書類
- 事業内容を説明する書類(定款や事業計画書など)
◆口座開設時の注意点
- 近年は、法人の実体確認が厳格化されており、福祉事業など資金の流れが明確な業種でも、事業の実態説明を求められることがあります。
- 実際の開業準備が進んでいないと口座開設を断られるケースもあるため、事業計画や物件契約書などの資料があると安心です。
◆どの銀行で開設すべき?
- 指定申請時点では、地方銀行や信用金庫でも十分対応可能です。
- 将来的に法人運営を広げていくなら、振込手数料やネットバンキングの利便性、支店網も考慮に入れて選ぶとよいでしょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 補助金が出やすい法人格はありますか?
A. 一般的に、NPO法人や非営利型の一般社団法人は、公益性が認められやすいため、補助金・助成金の対象となるケースが多いです。ただし、法人格だけでなく、「事業の目的」や「運営体制」が審査されるため、どの法人であっても補助金獲得にはしっかりとした準備が必要です。
Q2. 小規模でスタートしたい場合、合同会社でも指定申請は通りますか?
A. はい、合同会社でも障害福祉サービスの指定申請は可能です。法人格として認められていれば、事業所の体制や基準を満たせば問題ありません。特にグループホームでは、合同会社からスタートするケースも多く見られます。
Q3. 一般社団法人やNPO法人は営利活動ができないのですか?
A. 「非営利」とは「利益を上げてはいけない」という意味ではなく、「利益を構成員に分配してはいけない」という意味です。事業活動によって収益を上げることは可能であり、職員への給与や外注費として支出することも可能です。
まとめ:法人選びは開業準備の第一歩
障がい福祉サービスの開業は、「想い」だけでなく「制度」への理解も欠かせません。
法人形態をどれにするかで、その後の運営スタイルや資金の流れ、信用度なども大きく変わってきます。
まずは理想の運営スタイルを明確にし、それに合った法人格を選びましょう。
そして、計画的に、確実に、開業へとステップを進めていってください。
まずは、「どんなサービスを、どんな対象者に、どのように提供したいか」――
理想の運営スタイルを明確にすることが、法人格を選ぶうえでの第一歩です。
そして、設立後の流れ(物件、人材、資金、指定申請など)も見据えたうえで、
開業までのステップをひとつずつ、着実に進めていきましょう。
にしのみや福祉こあみ行政書士事務所では、
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まずは一度、ご意向をお聞かせください。


