【グループホーム開設】物件選びで押さえたい法令基準と実務のポイント③~見落としがちなリスク~

開業準備・指定申請

はじめに

グループホームの開設にあたり、「制度上使える物件かどうか」は当然、最初に確認すべき重要なポイントです。
ただ、実際に現場を見ていると、制度だけをクリアしていれば大丈夫だと思って突き進んでしまうケースが少なくありません。

特に、「障害のある人たちの居場所をつくりたい」「空き家を福祉に活用したい」といった強い“想い”を持つ事業者さんほど、冷静な判断が置き去りになってしまう傾向があります。
その結果、いざ運営が始まってから、職員が集まらない・利用者が来ない・修繕費がかさむといった現実的な問題に直面し、悩まれるケースを何度も見てきました。

だからこそ、制度と実務の両面を超えて、“その先の運営”を見据えた物件選びが大切なのです。

今回は、行政書士としてグループホーム開設を支援する立場から、「制度上は使えるけれど、実際の運営ではつまずきやすい物件の特徴」について、具体的に整理してお伝えします。

1.立地の問題 ~利用者も職員も集まらない~

郊外の住宅街や土地の安いエリアに物件が見つかると、「コスト面で有利」と思って決断する方も少なくありません。
しかし、利用者が就労先に通いやすいか? 通勤できる職員が確保できるか? という視点が抜け落ちていることがあります。

  • 利用者の就労先や日中活動先が遠く、通所が困難になる
  • 職員の通勤手段が限られ、応募自体が来ない
  • 駐車スペースがない、近隣に月極駐車場がない → 通勤不可

結果として、利用者が定着しない/職員が集まらない=運営が不安定になるという事態に。

コスト優先で決めた立地が、長期的には「人が集まらない物件」になることもあるのです。

2.古い建物のリスク ~購入費は安くても、修繕費が重くのしかかる~

築年数の経った戸建てを購入してグループホームにしようとするケースも増えています。
制度上は「使える」と判断されても、実際には以下のような課題が表面化することがあります。

  • 雨漏り、給排水トラブル、白アリ、断熱・防音不足などの修繕が必要
  • 設備(給湯器・エアコン・トイレ等)の全交換が必要
  • 図面が残っておらず、リフォームのたびに現況調査が必要

特に自己所有型では、「建物の修繕責任をすべて負うことになる」ということを十分に理解しておく必要があります。

最初の物件購入費が安くても、修繕や設備更新で結果的にコストがかさむことも。

3.安全面と賠償リスク ~“もしも”への備えを~

古い建物には、「修繕費がかかる」といった金銭的リスクだけでなく、物理的な危険性もつきまといます。

  • 古い塀や雨どいの部品が落下し、通行人や近隣住民に被害を与えてしまう
  • 腐食した床材や階段で、利用者が転倒・負傷する
  • 老朽化した設備から火災や漏電のリスクが生じる

こうした事故が起きた場合、損害賠償責任は事業者側に発生する可能性があります。
これは単なる「建物の老朽化」ではなく、運営責任に直結する重大なリスクです。

「そんなことを考えていたらキリがない」と感じるかもしれません。
けれども、だからこそ“万が一”の事態を想定し、必要な契約書や覚書、承諾書を整備しておくことが重要です。

おわりに

制度上は使える物件でも、運営面ではつまずく可能性がある――これは実務現場で本当によくある話です。
さらに、インフラの引込状況(上下水道、ガス配管)や、私道に接道しているかどうか、持ち分や通行権の有無など、物件ごとの細かい条件がトラブルの火種になります。そして何より、開設後に発覚した問題ほど「後戻りができない」ものです。

グループホームは、地域の中で長く続けていく事業。
だからこそ、最初の物件選びこそが、事業の安定性と継続性を左右します。

強い想いがあるときほど、見えていないリスクにも気づきにくいものです。
想いを実現するためにも、冷静な第三者の目を入れて、制度・実務・運営の三拍子がそろった物件選びを意識してみてください。

当事務所では、障害福祉に特化した行政書士として、グループホーム開設における指定申請はもちろん、物件選びから契約書類の確認など、宅建士としての経験からのアドバイスも可能です。

「この物件で本当に開設して大丈夫?」
「制度はクリアしているけれど、運営面の不安がある…」

そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。
“想い”を形にするために、第三者として冷静に、そして丁寧に伴走いたします。