受給者証、確認できていますか?~支援区分変更の落とし穴~

トラブル・リスク対応

障害福祉サービスの現場では、過誤請求により国保連からの報酬入金が1か月遅れる…そんなトラブルが実は珍しくありません。

その原因の一つとして、利用者の障害支援区分(注1)が変更されていたことに気づかず、旧区分のまま請求してしまうケースがあります。
特に注意が必要なのは「区分が下がる」ケース。
報酬単価が下がるだけでなく、これまで取れていた加算が外れてしまうこともあるため、支援区分変更の見落としは、事業運営に深刻な影響を与える結果に繋がります。
本記事では、そのような見落としが起こる原因と、どのように確認体制を整えるべきかをまとめました。

注1:区分1~区分6(全国共通の基準) 区分1が支援度合いが一番低く、区分6が支援度合いが一番高い。数字が上がるにつれて支援の度合いが高くなる。

支援区分が変わるのは、どんなとき?

支援区分は、初めて福祉サービスを使うときの新規申請時以降、有効期限の定期更新時(原則1年ごと)や状態変化があったとき(変更申請が行われた場合)に変更されます。

このうち「変更申請」による認定調査は、本人や家族、相談支援専門員などの申し出によって実施されるものです。

たとえば、以下のようなケースでは、支援区分の変更(上昇・下降)が行われることがあります。

  • 支援の必要量が明らかに増えた
  • 精神的に不安定になった
  • 医療的ケアが必要になった

このような場合は、支援区分が「上がる」可能性があります。

一方で、以下のようなケースでは、支援区分が「下がる」こともあります。

  • 日常生活の一部を自力でこなせるようになった
  • 投薬や支援により症状が安定し、問題行動が見られなくなった
  • 調査のタイミングがたまたま落ち着いていたため、支援の必要性が低く評価された

区分が下がった場合は、事業運営に与える影響は大きいため、調査の背景や評価結果には十分な注意が必要です。

事業者には必ずしも通知されない

ここで、見落とされがちな大きな問題があります。

それは、支援区分の変更申請が行われたことや、その結果が、グループホームなどの事業者に必ずしも通知されないという点です。

支援区分は、自治体による「認定調査」と「審査会」によって決定され、その結果は原則として本人または家族に通知されますが、あくまでも「本人または保護者への行政処分」です。
事業者は通知の対象外とされるため、以下の理由により事業所が変更に気づかないまま運営を続けてしまうことがあります。

  • 利用者本人が通知の内容を理解できない(知的・精神障害など)
  • 家族も制度に不慣れで、区分変更の重要性に気づかない
  • 通知が開封されなかったり、連絡が来ないままになる
  • 事業所で受給者証の確認が習慣化されていない
  • サビ管・相談支援員との情報連携が不足している

見落としが招くリスク

支援区分の変更に気づかないまま運営を続けてしまうと、最も直接的な影響として、旧区分に基づいた誤った内容で国保連に請求してしまうという事態が発生します。
この場合、請求は国保連でエラーとなり、返戻となることで入金が1か月以上遅れる可能性があります。

さらに、支援区分が下がっていた場合には、基本報酬と加算報酬が下がるため、継続的な運営に影響を及ぼす可能性があるのです。

見落としを防ぐための「仕組み化」

では、どうすれば支援区分変更の見落としを防げるのでしょうか?
すぐにできることをまとめました。

  • 受給者証の確認を、毎月のルーティンにする
     → 月初に必ず支給期間・区分を確認。コピーを回収する方法も有効です。
  • 利用者ごとの支給状況を一覧で管理する
     → 支援区分、有効期限、次回更新月などを可視化
  • 本人や家族に「通知が届いたら、必ず連絡を」と丁寧に伝えておく
     → 支援会議や定期面談で繰り返し周知
  • 相談支援専門員と区分変更時の連絡ルールを事前に確認しておく
     → サビ管や事業管理者と連携体制を築く
  • 請求前に「受給者証確認済みか」のチェックを入れる
     → 請求ミスの最終防止ラインとして活用

事業者は、制度的に通知が来ない仕組みであることを前提に、確認の仕組みを自ら作っていくことが必要です。
ミスを“誰かのせい”にしないためにも、事業所内でのルール化が欠かせません。

認定調査の結果に納得がいかない場合は?

認定調査の結果に対して、「実態よりも低い評価ではないか」と感じる場合には、
本人または法定代理人・保護者からの不服申立て(再審査請求)が可能です。

たとえば、

  • 調査時の聞き取り内容が不十分だった
  • 医師意見書が簡素すぎて実態を反映していなかった
  • 一時的に状態が良く見えたタイミングで調査が行われた

といった事情がある場合には、再調査や支援区分の見直しが認められることもあります。

そのため、こうした制度の存在を事業者側も正しく理解しておくことは、利用者支援の質を高めるうえでも重要です。
支援区分の結果に違和感を覚えた場合、「不服申立て(審査請求)という選択肢もある」ことを伝えられるだけでも、利用者や家族にとっては大きな助けになるかもしれません。

支援区分に関する制度は、事業運営に直接影響を及ぼすだけでなく、利用者の支援のあり方にも深く関わっています。
だからこそ、日々の確認体制を整えること、制度の仕組みや対応策を理解しておくことは、事業所としての責任ある姿勢につながります。
小さな見落としが思わぬリスクにならないよう、今できる備えを一つずつ重ねていきましょう。

当事務所では現場に寄り添いながら、実務を支えるサポートを行っています。制度の運用に迷ったときや、判断に悩む場面があれば、お気軽にご相談ください。