はじめに
グループホーム(共同生活援助)は、障害のある方が地域で自立した生活を送るための大切な住まいの場です。入所施設や精神科病院からの「地域移行」を支える柱として、全国的に整備が進んできました。
やりがいのある仕事であることは間違いありませんし、社会的な意義も大きいですが、実際に開設するとなると、法人格の取得から始まり、物件の確保、人員配置、膨大な申請書類の準備……と、越えなければならないハードルがいくつもあります。「思っていたより大変だった」とおっしゃる方も少なくありません。
この記事では、グループホームの新規開設を検討されている方に向けて、申請の流れ・指定基準・報酬の仕組みから運営上の注意点まで、できるだけわかりやすくまとめました。ぜひ開設準備の第一歩としてお役立てください。
| 【令和8年度 重要なお知らせ】報酬の臨時的見直しについて 令和8年6月以降に新規指定を受ける事業所(共同生活援助などの一部サービス)では、制度の持続可能性や「安易な開設を抑制する」という観点から、基本報酬が約2.8%引き下げられる臨時的な見直し(応急措置)が示されています。 今年度に開設を検討されている方は、必ずこの点を織り込んだ事業計画を立てるようにしてください。 最新の報酬単価は厚生労働省または所管の行政窓口でご確認をお願いします。 |
なお、指定申請の窓口・提出期限・書類の様式等は都道府県・指定都市・中核市によって細かく異なります。この記事はあくまで全体像をつかんでいただくためのものですので、個別の手続きは必ず所管の行政窓口でご確認ください。
第1章 共同生活援助(グループホーム)とは
1-1 共同生活援助の概要
まず、制度の基本的な位置づけから確認しておきましょう。共同生活援助は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの「訓練等給付」に該当するサービスです。主として夜間において共同生活を営む住居で、相談・入浴・排せつ・食事の介護その他の日常生活上の援助を行います。

1-2 グループホームの3つの類型
グループホームには3つの類型があります。最初に事業者が選択する必要がありますので、それぞれの特徴を整理しておきましょう。

1-3 制度の変遷と近年の動向
制度の変遷を簡単に振り返っておきます。グループホームは1989年(平成元年)の制度化以来、大きく形を変えながら今に至っています。特に近年の動きは報酬にも直結しますので、ぜひ押さえておいてください。
- 平成18年:障害者自立支援法施行により、共同生活援助(グループホーム)として一元化
- 平成26年:ケアホームとグループホームが統合。介護サービス包括型・外部サービス利用型の2類型に
- 平成26年:サテライト型住居の制度創設(一人暮らしに近い形態)
- 平成30年:重度障害者対応の「日中サービス支援型」が新設
- 令和4年:一人暮らし等への移行支援が共同生活援助の支援内容として明確化
- 令和6年:基本報酬が6:1の配置基準に一本化。地域連携推進会議の設置が義務化
- 令和8年6月:新規指定事業所への基本報酬が約2.8%引き下げ(臨時的見直し)
第2章 開設の流れと申請手続き
2-1 申請の全体スケジュール
ここからが、多くの方が「どこから手をつければ…」と頭を抱えるところです。申請の流れを順を追って見ていきましょう。
申請窓口は事業所の所在地によって異なります。都道府県内の一般の市町村に設置する場合は都道府県が窓口、政令指定都市・中核市に設置する場合はその市が窓口になります。指定日(事業開始できる日)は毎月1日が一般的ですが、自治体によって違いがあるので事前に必ず確認してください。

| 【申請先の確認方法】 ● 都道府県内の一般市町村に事業所を設置する場合 → 都道府県の担当窓口 ● 政令指定都市・中核市に事業所を設置する場合 → 当該市の担当窓口 ※ 各自治体の担当部署・連絡先・様式・提出期限は、必ず事前に所管窓口のHPや電話にてご確認ください。 |
2-3 主な申請書類
申請書類の多さは、初めて見ると正直なところ「これだけ揃えるの…?」と驚かれる方がほとんどです。
参考までに、西宮市の申請書類一覧を掲載します(※共同生活援助の場合)
様式・名称・必要書類は自治体によって異なりますので、他の市区町村で申請される場合は必ず自治体HP、所管窓口でご確認ください。
● 必須書類(○)

● 必要に応じて提出する書類(△)

| ポイント サービス管理責任者研修が未修了の場合でも「研修受講誓約書(参考様式4)」を提出することで申請自体は可能となる場合もありますが、指定日までには必ず研修修了証を提出しなければなりません。事前に研修のスケジュールを確認、自治体と相談することをお勧めします。 |
第3章 指定基準(設備・人員・運営)
3-1 設備基準
次は、どんな建物・場所でグループホームを開設できるか、という設備基準の話です。「この物件で大丈夫ですか?」というご相談も非常に多いので、しっかり確認しておきましょう。
● 立地
- 住宅地または住宅地と同程度に地域交流の機会が確保される地域にあること
- 入所施設または病院の敷地外にあること
● 定員

● 居室・設備
- 居室面積:収納設備等を除き7.43㎡以上
- ユニットには居室のほか、居間・食堂等の交流設備を設けること
- 居室はカーテンや簡易パネルで仕切っただけのものは不可(明確に区分すること)
● 建築基準法・消防法への対応
- グループホームは建築基準法上「寄宿舎」として扱われます
- 用途変更部分の床面積が200㎡超の場合は確認申請が必要
- 消防法により自動火災報知設備・火災通報装置・消火器等の設置が義務付けられています
- 事業開始前に必ず管轄の消防署へ協議してください
3-2 人員配置基準
人員配置基準は、収支計画にも大きく関わる重要なポイントです。介護サービス包括型を例に整理します。

| ⚠ サービス管理責任者は、名義貸しや短期間配置の繰り返しは「実質不在」とみなされ、欠如減算や行政処分の対象となる場合があります。 |
3-3 指定の単位と事業所の範囲
少しわかりにくいのが「事業所の単位」の考え方です。グループホームは1棟の建物ごとに指定されるわけではなく、主たる事務所から概ね30分以内で移動できる範囲にある複数の住居をまとめて「1つの事業所」として指定を受ける仕組みになっています。
そのため、申請書類には主たる事務所と各共同生活住居の間の経路距離がわかる地図の添付が必要となる場合があります。複数棟での展開を考えている方は、この点も念頭に置いておいてください。
第4章 サービス報酬の計算
4-1 報酬計算の基本
「グループホームはどのくらい売上が見込めますか?」これもよく聞かれます。報酬の仕組みを順番に説明します。

4-2 地域区分と1単位単価(令和6〜8年度)
1単位あたりの単価は地域によって違います。以下の表は令和6〜8年度に適用される単価です。事業所を設置する地域の級地をしっかり確認しておきましょう。

| ⚠ ※単価は共同生活援助(人件費割合72%)の場合。 出典:厚生労働省「令和6〜8年度における地域区分の適用地域(障害者サービス)」。最新情報は必ず所管窓口・厚生労働省の公式資料でご確認ください。 |
4-3 報酬計算例
具体的な数字で見てみましょう。あくまで一例ですが、イメージをつかんでいただけると思います。
【例】介護サービス包括型・世話人6:1配置
・障害支援区分3・利用者6人・月30日稼働・西宮市(4級地)の場合

| ⚠ 令和8年6月以降に新規指定を受ける事業所は基本報酬が約2.8%引き下げられます。上記の計算はあくまで参考例です。最新の単位数・単価は厚生労働省の告示をご確認ください。 |
4-4 主な加算
● 人員配置体制加算
令和6年度から基本報酬が世話人6:1に一本化された関係で、加算をしっかり取らないと前年度並みの収益を確保しにくくなりました。特にこの2つの加算は多くの事業所で算定されています。

● 夜間支援等体制加算Ⅰ
夜間支援従事者を配置して、午後10時〜翌午前5時を通じた支援体制を整えることで算定できます(日中サービス支援型は対象外)。夜間対応の体制をしっかり組めれば収益面でも大きなプラスになりますが、要件の細かさに注意が必要です。
- 夜間支援従事者は常勤・非常勤を問いません
- 夜間(22:00〜翌朝5:00)に少なくとも1回以上の巡回が必要(記録必須)
- 1人の夜間支援従事者が複数住居を担当する場合、住居間の移動は概ね10分以内
- 対象利用者2人以下:区分4以上672単位/日、区分3は560単位/日、区分2以下448単位/日
● 福祉・介護職員等処遇改善加算
職員の給与を引き上げるための加算で、ぜひ積極的に取得してほしい加算のひとつです。令和6年6月に旧3加算が一本化され、令和8年6月にはさらに見直しが行われました。
計算の仕組みは他の加算と少し異なり、「基本報酬+各種加算(処遇改善加算を除く)-減算」の合計額に対して、一定の加算率を乗じて算定します。
【令和8年6月以降の加算率】(類型ごとに異なります)

算定要件・手続きの詳細について
算定要件(キャリアパス要件・月額賃金改善要件・職場環境等要件)や計画書の提出手続きについては、別記事で詳しく解説する予定です。
⚠ 出典:厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項」。外部サービス利用型の加算率が介護サービス包括型・日中サービス支援型より高いのは、外部委託する介護サービスのコスト分を別途負担していることが背景にあります。最新情報は必ず所管窓口または厚生労働省の公式資料でご確認ください。
● 加算取得が経営の生命線
基本報酬だけで人件費・家賃・光熱費などの運営コストをすべてまかなうのは、現実的に非常に厳しいです。
自事業所の人員配置体制や加算制度を理解した上で、報酬全体を底上げしていくことが安定経営の前提になります。
理解を間違えていると後から加算額の返還を求められるリスクがあることに留意し、開設前から「どの加算が取れるか」を意識して事業計画を組み立てることを、お勧めします。
第5章 運営上の重要事項
5-1 基本理念と権利擁護
指定を取れた!これがゴールではなく、ここからが本番です。運営面では法令上の義務がたくさんありますが、特に重要なものを押さえておきましょう。
グループホームの運営において、何より根底にあるのは「障害のある方の尊厳を守り、その人らしい暮らしを支える」という理念です。法律の条文としても、障害者基本法・障害者総合支援法に「全ての人が障害の有無にかかわらず平等に尊重され、地域社会で共生できること」が明記されています。
● 虐待防止
- 虐待防止委員会を年1回以上定期的に開催
- 従業者への虐待防止研修を年1回以上実施(新規採用時も必須)
- 虐待防止担当者を配置すること
- 「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は身体的虐待に該当
● 意思決定支援
- 利用者が「どこで誰と生活するか」の選択の機会を確保すること
- 利用者の意思に反して自宅帰省を強制・禁止することは指定基準違反となり得る
5-2 個別支援計画の作成
サービス管理責任者が中心となって個別支援計画を作成します。一人ひとりの状況に合わせた計画が求められます。流れはこのとおりです。
- アセスメント:利用者の心身状況・生活歴・病歴・希望を把握
- 個別支援計画(原案)の作成
- 個別支援会議の開催(利用者・家族・担当者が参加)
- 利用者の同意取得(文書による)
- 計画の交付(利用者・相談支援事業所へ)
- モニタリング(少なくとも6か月に1回以上の見直し検討)
| ⚠ 他の利用者の個別支援計画を流用することは認められません。利用者一人ひとりの状況に応じた計画作成が必須です。 |
5-3 利用者負担額の受領
利用者の方からいただける費用には、法令上きちんとルールがあります。受領できるのは以下の範囲です。
- 食材料費
- 家賃(特定障害者特別給付費を除いた額)
- 光熱水費
- 日用品費
- その他:利用者の希望による身の回り品・余暇活動費等(一律徴収は不可)
● 食材料費の取扱いには特に注意が必要です
実は、グループホームの食材料費をめぐるトラブルは全国的に後を絶たず、厚生労働省が令和5年10月に異例の注意喚起通知を出すほどの問題になっています。過大に徴収した食費を他の費目に流用したり事業者の収益にしてしまうケースが報道されたためです。
【食材料費の適正な取扱い】3つのルール
①残額は必ず返還または次の食材料費に充てること ②サービス開始時・変更時に内容と金額を説明し、利用者の同意を得ること ③ 利用者から求められた場合は収支を説明できるようにしておくこと
⚠ 食材料費の不適切な徴収は、指定基準違反にとどまらず「経済的虐待(障害者虐待防止法)」に該当する可能性があります。光熱水費・日用品費についても同様のルールが適用されます。
5-4 必須の委員会・研修等

5-5 地域連携推進会議
令和7年度から義務化(令和6年度は努力義務)となった比較的新しい仕組みです。地域に開かれた透明性のある事業運営が求められています。「会議の設置が義務化」と聞くと大変そうに感じるかもしれませんが、地域との関係づくりという意味では、むしろ事業所にとってプラスになる面もあります。
- 構成員:利用者・家族、地域住民代表、福祉の知見者、市町村担当者等
- 年1回以上の開催が必要
- 構成員による住居見学:年1回以上(複数住居がある場合は住居ごと)
- 会議記録は5年間保存し、公表すること
5-6 情報公表制度
指定を受けた後は「障害福祉サービス等情報公表制度」に基づき、事業所情報を都道府県・指定都市・中核市へ報告する義務があります。うっかり忘れがちなのですが、報告を怠ると「情報未報告減算」という形で報酬が減額されてしまいます。開設後の早い段階で対応を済ませておきましょう。

おわりに
グループホームの開設は、書類の準備・行政との協議・物件の確保・人材採用と、同時並行でたくさんのことを進める必要があります。
「やることが多くて途中で止まってしまった」というケースも耳にします。 令和8年6月以降の報酬引き下げという新たな課題もありますが、適切な加算を取得できれば十分に安定した運営は可能です。 大切なのは、最初の事業計画をしっかり作り込むことだと思っています。 申請手続きや事業計画策定でわからないことがあれば、是非とも「障害福祉専門」の行政書士に相談してください。 一人で抱え込まず、専門家をうまく活用しながら進めていくのが、スムーズな開設への近道だと感じています。
参考資料
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)
- 共同生活援助における運営や支援に関するガイドライン(案)(厚生労働省)
- 障害福祉サービス等報酬告示(厚生労働省)
- 障害福祉サービス等情報公表制度(厚生労働省)WAM NET
- 各都道府県・指定都市・中核市の障害福祉サービス事業者指定申請の手引き


