【令和8年6月改正】障害福祉 処遇改善加算改正のポイントを解説

法令・制度解説
令和8年6月、障害福祉サービス等の報酬改定(期中改定)が施行されます。今回の目玉は、なんといっても「処遇改善加算のさらなる拡充」です。

「またルールが変わるの?」と身構えてしまうかもしれませんが、今回の改定は人材確保に悩む多くの事業所にとって強力な追い風となります。実務で押さえるべきポイントを3つに絞って解説します。(令和8年3月28日時点)

ポイント①:対象が「障害福祉従事者」全体に拡大!

これまでの加算は「福祉・介護職員」への配分が基本でしたが、今回の改正で対象が「障害福祉従事者」という枠組みに広がりました。

令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について
令和8年2月18日 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム

これまでは「直接処遇職員」に限定されていた加算が、職場全体の職種をカバーできる仕組みに変わっています。これまで加算を分配しづらかった事務職や調理員、運転手、清掃スタッフなど、現場を支える全ての職員に対して柔軟な賃金改善が可能になります。

ポイント②:月額最大「1.9万円」の賃上げを目指す新構造

国は、他産業に負けない賃金水準を確保するため、加算率を大幅に引き上げます。今回の改定で示された「1.9万円」という数字は、これは単なる一律のベースアップではなく、「国の支援」と「事業所の努力」を組み合わせた目標値です。

その内訳を詳しく見ると、3つの階層に分かれています。

項目金額(目安)概要・条件
(1) 基本の引上げ分約10,000円処遇改善加算率のベースアップ。すべての算定事業所が対象。
(2) 生産性向上の上乗せ約3,000円「新・上位区分」を取得した場合に上乗せ。ICT導入などが鍵。
(3) 定期昇給分約6,000円事業所が本来行うべき毎年の昇給分。これを含めて1.9万円。
合計(最大)約19,000円約6.3%の賃上げを目指すパッケージ

注目すべきは新設の「上位区分(ロ)」

令和8年6月からは、これまでの加算Ⅰ・Ⅱがさらに細分化されます。

  • 加算Ⅰ(イ)・Ⅱ(イ): 従来の要件を満たす区分
  • 加算Ⅰ(ロ)・Ⅱ(ロ): 「生産性向上」の要件を満たすことで、より高い加算率が適用される区分

この「(ロ)」を選択することで、上記表の(2)にあたる上乗せ原資が確保できます。

なぜ「生産性向上」が条件なのか?

国は、「ただ給料を上げる」だけでなく、「ICTやロボットを活用して現場の負担を減らし、余裕ができた分を給料に回す」というサイクルを求めています。

具体的には、以下のような取り組みが評価の対象となります。

  • 見守りセンサーやインカムの導入による情報共有の効率化
  • タブレット端末による記録入力の簡略化
  • 外部専門家(行政書士や社労士等)による業務フローの見直し

「1.9万円」を単なるコスト増と捉えるのではなく、「国の補助でICT化を進め、職場環境を劇的に改善するチャンス」と捉えるのが、今回の改定のポイントです。

ここで注意が必要なのは、「キャリアパス要件」は従来通り必須であるという点です。

キャリアパス要件Ⅰ役職と給与のルール化「班長→主任→管理者」といったポストと、それぞれの給与額を明確に決めること。
キャリアパス要件Ⅱ資質向上の仕組み作り資格取得の支援(受験料補助など)や、研修計画を立ててスキルアップを応援すること。
キャリアパス要件Ⅲ昇給ルールの明文化「経験年数」や「資格」「人事評価」で、どう給料が上がるかを就業規則等に書くこと。

「月額1.9万円の賃上げ」という数字ばかりが注目されがちですが、その原資となる加算を受け取るためには、上記のキャリアパス要件が整っていることが、これまでと同様に絶対条件となります。

今回の改定でも、事業所が守るべき要件は従来通り、厳格に求められます。

  1. 職位・職責・職能に応じた任用要件と賃金体系の整備 「どんなスキルがあれば、どの役職に就き、いくら給料が上がるのか」を具体的に定めること。
  2. 資質向上のための目標と研修機会の提供 職員が資格取得や研修を受けられる計画を立て、実施すること。
  3. 実効性のある昇給ルールの明文化 「勤続年数」や「人事評価」に基づいた昇給の仕組みを、就業規則などの書面で備え付けていること。

加算額が増える分、行政のチェックもより「実態」を重視するようになります。

「とりあえず給料を上げたからいいだろう」という運用では、運営指導などで「根拠となる規程がない」「周知が不十分」と指摘され、最悪の場合は加算の返還命令を受けるリスクすらあります。

ポイント③:相談支援事業所も対象に

これまで「処遇改善加算がないから、他職種に比べて給料を上げにくい」と悩まされてきた相談支援の現場も、新たに専用の加算が創設されます。

  • 対象: 計画相談支援、地域相談支援、障害児相談支援
  • 加算率:新たに「5.1%」前後を想定

相談支援専門員は、地域の障害福祉を支える「要」です。しかし、処遇改善加算の対象外だったことで、他職種への人材流出が課題となっていました。 今回の新設により、「相談員としてのキャリアを安心して歩める環境」が国によって公式にバックアップされることになります。

経営者が今こそ見直すべきこと

処遇改善加算は、単なる「給付金」ではありません。 「きちんと組織のルール(キャリアパス)を作り、しっかりと職員へと還元、職場環境を整えている事業所を、国がしっかり支援する」という仕組みです。

  • 規程類が数年前の古い情報のままになっていませんか?
  • 職員に「自事業所の昇給ルール」を自信を持って説明できますか?

「最大1.9万円」という原資をどう活かし、「生産性向上」をどう取り入れるか。そして「キャリアパス」をいかに実態に合わせていくか。 これらへの対応は、そのまま「職員に選ばれ、長く働いてもらえる職場かどうか」の答え合わせになります。

誰が見ても納得できる「透明性の高い賃金体系」を再構築すること。 これこそが、深刻な人材流出を防ぎ、事業所を成長させる唯一の道といえるのかもしれません。

※本記事は、令和8年3月28日時点でわかっていることです。国からはまだ様式が出ておりませんが、公開されましたらまた整理してお伝えさせていただきます。