「障害者グループホームを始めたいけれど、何から手をつけていいかわからない」
――そんなご相談をいただくことがあります。
この記事では、これからグループホーム(共同生活援助)の開設を目指す方に向けて、必要な準備や手続き、注意点をわかりやすく解説します。
ステップ1:事業の基本方針を固める
グループホームの開設にあたっては、まず「どのような施設を目指すのか」という事業の方向性を明確にしておくことが重要です。
以下の点を整理しておきましょう。
- 対象とする利用者像
知的障害、精神障害、身体障害など、想定する利用者の特性や支援ニーズを明確にします。 - 支援の方針
自立に向けた段階的な支援を行うステップ型か、長期的な生活支援を中心とするか、支援の方向性を定めます。 - スタッフ体制の検討
世話人や生活支援員の配置、勤務時間帯、支援の質など、具体的な体制を構築するための前提となります。 - 定員と施設規模の設定
1ユニットあたりの定員(例:4〜5名または6名以上)や、居室数なども併せて検討します。
あわせて、法人としての理念や、他施設との差別化につながる「強み」も言語化しておくと、今後の物件選定や職員採用においても大きな指針となります。
ステップ2:物件の選定と施設整備
グループホーム開設の成否を左右する大きな要素のひとつが、適切な物件の確保です。
住宅を活用する場合でも、法令や指定基準に適合した構造・設備であることが求められます。
確認すべき主な項目は以下の通りです。
- 用途地域
多くの地域で開設は可能ですが、「工業専用地域」は不可。
また、第一種低層住居専用地域などでは、自治体による制限や条件がある場合があります。 - 建築基準法の適合性
グループホームは原則として「寄宿舎」扱いとなり、用途変更や構造要件への対応が必要なこともあります。 - 消防法上の対応
定員や建物構造に応じて、スプリンクラーなどの設置義務が生じる場合があります。 - 市町村独自の基準
自治体ごとに居室面積や採光や換気についての指定基準が違う場合があります。
物件取得の前に、図面をもとに建築指導課や福祉課、消防署などと事前協議を行うことが大切です。
ステップ3:人員体制の整備
グループホームを運営するには、法定の職種を適切に配置する必要があります。
- 管理者(常勤)
法人内での兼務も可能ですが、一定の勤務時間が必要です。 - サービス管理責任者(サビ管)
実務経験や研修修了が必須。配置が義務づけられています。 - 世話人・生活支援員
日常生活を支える支援員。利用者数や時間帯に応じた人員確保が必要です。
職種ごとの要件や配置基準は自治体によって細かく異なるため、早めの人材確保と確認が重要です。
ステップ4:指定申請の準備
施設と人員体制が整ったら、都道府県または市町村に対して指定申請を行います。
申請書類はボリュームがあり、ミスがあると返戻や受理の遅れにつながるため、慎重に準備を進める必要があります。
■提出書類参考(一部)■
- 指定申請書(別紙)、付表
- 勤務形態一覧表
- 登記簿謄本
- 賃貸契約書、平面図、室内写真
- 運営規程
- 雇用契約書
- 経歴書、実務経験証明書、資格証、研修修了証
- 利用契約書・重要事項説明書 など
申請方法や必要書類は自治体ごとに異なるため注意が必要です。
オンライン申請を採用している自治体、独自様式を定めている自治体など、地域ごとのルールに従って対応する必要があります。
提出の1,2ヶ月前には、行政との事前相談(ヒアリング)が必要な自治体がほとんどです。
ステップ5:開設前のチェックと調整
申請が受理された後、開設前に行政による実地確認(現地調査)が実施されます。
これは、書類上の内容と現地の整備状況が一致しているかを確認するための重要なプロセスです。 主に以下の点がチェックされます。
① 図面との整合性
- 提出した平面図どおりに居室・共有スペースが配置されているか
- 居室の面積(原則7.43㎡以上)を満たしているか
② 法令・基準への適合
- トイレ・浴室・手洗い場などの数と位置が適切か
- 避難経路や非常口、掲示物(避難経路図、防火管理者名など)が整備されているか
- 建物用途や構造が適法であるか(寄宿舎扱い・用途変更済みか等)
③ 支援体制と記録関係
- 管理者・サービス管理責任者・世話人等の配置予定が書類と一致しているか
- 支援記録、業務日誌、個別支援計画、モニタリングなどの記録様式(ひな型)が整備されているか
- 利用契約書、重要事項説明書、運営規程が整っているか
④ 消防法関係(※地域による)
- 自動火災報知設備や誘導灯の設置
- 消防署の「消防法令適合通知書」などの確認
この実地確認で不備が見つかると、指定日が延期される可能性があるため、事前に内部での点検を行い、スタッフ全員に内容を共有しておくことが非常に重要です。
とくに、“紙の上だけ”で整えた内容と現場とのずれが起きやすいため、現場視点での確認を心がけましょう。
ステップ6:運営開始後の体制づくり
無事に指定を受けて開所した後も、運営体制の整備は継続して求められます。
「支援の質」と「制度遵守」の両立が、グループホーム運営のカギとなります。 とくに初期段階で重要となるのは次のとおりです。
- 給付費請求(国保連)体制の整備
報酬請求の仕組みを正しく構築し、誤請求や過誤請求を防ぐ運用が必要です。 - 記録・計画の運用体制
支援記録、個別支援計画、モニタリングなどを“実際の支援に即して”適切に運用していくことが求められます。 - 内部体制の構築
事故対応マニュアル、委員会(虐待防止、身体拘束適正化、衛生管理など)の立ち上げ、加算届出の準備など、制度面でもやるべきことが多数あります。 - 運営指導や監査への備え
開設から1〜2年以内に運営指導が入るケースもあり、普段から記録や書類を整えておくことが大切です。
日々の運営に追われる中でも、「記録が支援を支え、支援が記録に残る」という意識を職員全体で共有することが、安定運営の土台になります。
グループホーム開設という想いを、かたちにするために
グループホームの開設には、物件や人員、制度への理解など、多くの準備が必要です。
初めての方にとっては、何から手をつけたらよいか不安に感じるかもしれません。
でも、心のどこかに
「誰かの居場所をつくりたい」
「地域に安心して暮らせる場を増やしたい」
そんな想いがあるなら、その気持ちは何よりの出発点になります。
一歩ずつでも、正しい順序で準備を進めていけば、きっと形になります。
制度や手続きの面で戸惑ったときは、どうか一人で抱えこまないでください。
私は、そうした方々の最初の一歩を、制度面・実務面の両面から支えることを専門としています。
このコラムが、あなたの道しるべになればうれしいです。